『瀧の白糸』(1933/溝口健二)覚書2021/7/21

 Youtube活弁入りを鑑賞。割とサイレント時代は溝口センセも楽しい映画撮ってたんやかと思えばやっぱろセンセはセンセでした。女の粋、あの二人の橋の上のシーン、そして男の身の上話、両親に死なれた為に学問の道を諦め馭者として生活をたてていた。女は彼に学資の仕送りを決める。何かできることは、あたしを可愛がってほしい……25歳と24歳、24ったらこの時代じゃもうおばあ。芸人稼業で気づけば年増、いつの時代もヤクザな身の上の女、それも器量よしで生き残る腕のある強い女はそれ故に歳を食う……彼に想いを託す。

 されども水芸は夏の芸、冬は食うに食えないその上災難が重なり仕送りどころか一座の存続すら危ぶまれる。親の死に目に会いたいと金をせびられその金で駈け落ちされ、番頭と生娘の駈け落ちを後押しし、無い袖振って金までやって話をつけて……江戸っ子の粋ってのの苦しさ。自分の身を削ってまで人に尽くす、むしろそれを見過ごす方が恥だとばかりに。

 行く所まで行って金を借りるも騙され300円を丸々盗られ、そしてカタに体を弄ぼうとダンナ、抵抗したはずみで刺してしまう! 目の前には金、握って走る。全ては立身した欣さんの姿を一目見るために。

 彼の宿にあがると欣弥の姿はない。世話をしていた婆やは彼はいつも姉さんのおかげだ、姉さんの為に一日も早く身を立てなければと勉学に励んでいたと。彼女はむしろ彼がそこに居ないことに安堵を覚えたかのようだ、自分は殺人者なのだから……彼の使っている火鉢、彼の服、まるで我が息子の成長を喜ぶ母のよう。

 彼が事件の担当検事となって二人は再会を果たす。涙する彼女、男は辞職して……いや、私がかわいそうだと思うならあなたの手で……男は決意する。

 そして『裁かるゝジャンヌ』ばりの二人の顔、顔! この正面のショットが良い。

女はすべてを告白した。そして活弁、その後彼女は下を噛み自殺、男はピストル自殺を、男がピストルを持つ写真、そして終。

 粋な芸人、ヤクザ者の悲劇。それでも彼女は意地を張る、器量を、誇りを捨てずに。

私が一体なにを語ることが出来ようか?