『子供の四季 秋冬の巻』(1939/清水宏)覚書2021/7/27

 Youtubeにて鑑賞。

 ついに復讐に成功した男、しかし家庭の影は一層深まるばかりである。権力、地位、そして金を得たとて息子は友人との遊び場を奪われ、妻も大の仲良しであった兄弟の母を裏切る形となってしまい__それでも父は仕事に口を出すことを許さない。

 現在読み進めている『未来は長く続く』において語られるアルチュセール家の悲劇も同じような構図だ。出世頭の父と断絶した家族という。

 本作の何がおしいかと言えば、フィルムの最終巻が欠損している点に尽きる。フィルムは男が潔く除名を受け入れ退場するシーンで終わってしまっている。果たしてその後、両家庭はどうなったであろうか? 子供というものは、希望である。断絶され壊れてしまった家庭を子供はなんとか繋ぎとめようとする。

 復讐の鬼ヒースクリフと化した男が敗北を認めたのか、はたまた裏で知恵を働かせまたもや出し抜いたのか。それとも自殺したか__全ては推察の域に留まるしかない。しかし私が真に願うのはこの三人家族の修復に尽きる。それも両家庭の関係が修復するように、『ロミオとジュリエット』のラストシーンのように。実際、子供がおんぶのリレーで家まで運んだことをきっかけに母も改心したのだから、父も改心しハッピーエンドで終わると、そうであると私は信じている。兄は中学に通い、入学式のシーンで終わったりなんかして__それにしても欠損は本当に悲しい。

 やはり『春夏の巻』の父の言葉が作品全体を貫いているように思う。ヒースクリフの生涯、しかし清水が何より素晴らしいのはそれをかの有名な『切腹』のように悪や悲劇を誇張して描かなかった点に尽きる。彼は自然と同じように人を、子供を撮るのだ。ロベール・ブレッソンの言葉を借りるなら、清水はそれらを描写するのではない。そこに”居る”のだ。エンターテイメントとして、鬼退治の物語としてではなく、自然によって、子供によって表現してみせた清水宏__清水と溝口大好き!