『ツィゴイネルワイゼン』(1980/鈴木清順)覚書2021/8/6

 ダメだ、全くノれなかった。盲目の三人の話で、砂浜に埋まった二人が殴り合うのと青い桜のシーン以外は全部ダメだった。砂浜のシーンなんか完全に『みんな~やってるか!』のノリだしもちろん足元の三つの死体と蝋燭のショットとかも良いけどどうもカッコつけすぎなんだよな、そうじゃなくてコントに振り切って欲しかった。気取らないでさ。眼球を舐めるのも白黒で後半にもう一回入れてくるのとか流石にあざとすぎるし臭い。逆に一番寒いと思うんだよな、如何にも権威付けたがりの評論家がありがたがりそうで。

 何が悲しいって清順はそれを狙って撮っているんだな。何故ならかつて彼を愛した日活の観客はもう存在しないのだし、又それらを生み出す環境も存在しないのだから。

 清順は幽霊を描いたって? 私には彼が幽霊そのものに思える。失われた日活から舞い戻った幽霊。彼は活動屋として評論家に魂を売る、全ては飯を食う為に__それは私等には想像し得ない苦悩であろう。私がこの映画に寄せるのは清順に対するある種の同情のようなものであり、真に私が愛する清順はアントニオーニのような臭さではなくかつての日活時代__『探偵事務所23 くたばれ悪党ども』や『野獣の青春』であって、電話の横つなぎのシーンなんかは好きだけども(松本俊夫『修羅』の対面を横でつなぐシーンを彷彿とさせる)、それらが宍戸錠の下から突き出すライフルの美に勝るとは到底思えないのが実の所である。