『祇園囃子』(1953/溝口健二)覚書2021/8/10

 タイトル明けの1ショット目からもうキマりまくっているんだな、宮川のキャメラは。縦の構図、それも上からのこの構図は『無法松の一生』においても確認できる。

 姉がお君へ謝罪する際のあの二人のショット、これも上から斜めに鋭角に捉える、これもキマりまくっている。特に冒頭、一同が横に並び舞う稽古のシーンは本当に素晴らしい。このシーンだけで本作は宮川のキャメラによって成立しているのではなく、あくまで溝口のアクションあってこそのものだと確認できるだろう。

 勿論列車内の縦のショットも素晴らしいが、なによりもまず溝口の動きだろう。あの妹が事件を起こすシーンの頭で、玄関を人が入れ替わりで動く動く……この至福。

 しかし本作程露骨に男のイデオロギー的支配を暴露したのは溝口の作品群においても突出していると言えるだろう。姉は妹をかばい、自らが身代わりとなって身体を売る。ヤクザな世界である。冒頭の三十万からして彼女の運命はわかりきっていた。しかし逃れる術はない、妹は拒絶するもやはり道は一つしかないのだ。身寄りもなければ行くあてもなく、そして何より金がない……。

 お君の説教もごもっともなんだな、悲しいことに。芸者稼業自体が男の支配によって成り立っている訳で、一度踏み入れたらもう郷に入っては郷に従うしかないという。

 それにしても溝口のアクションは素晴らしいな、良く動くし妹がアイスキャンディーを捨てに行く際に走って行って斜めにキャメラが追っていく(パン)だとか気持ち良いドウサ!