『楊貴妃』(1955/溝口健二)覚書2021/8/15
ここまで贅沢な映画も珍しい。カラーで、バカでかいセット組んで、このキャストで……そして何よりも監督が溝口健二。助監督に増村保造。
そう、最初の正面の廊下を歩いてきてからの横移動からもう溝口。上弦の節句のシーンなんかも凄い、正面から仮面の舞踏を捉えるキャメラ、軍隊行進もクレーンで徐々に上がって行ってしっかり後続につれて大勢に映るように適切なショットをキメている。 もう何から何まで超高校級の映画。
楊貴妃の最後のシーンも凄い、足元だけを映して地面をキャメラが移動し、アクセサリーが落ちて……『雨月物語』のようなキャメラ。そしてラストシーン、またあの廊下に戻って来る! この音楽性! 素晴らしい。
そして何より評価すべきは90分であるということ。下手な監督なら最低でも120分、下手したら150分で撮るでしょう。これだけ濃密で贅沢極まりない90分映画が鳴かず飛ばずだったというのも内容も相まってなんだか皮肉だなと。『新・平家物語』も楽しみで仕方がない、これぞ映画、もう二度と撮られることはないであろう映画。日本の偉大なる遺産。オリヴェイラがお気に入りなのも頷ける、あくまで映画は演劇をキャメラで収めたものにすぎないのだから。それをここまでのレベルに極めた溝口は常に我々を驚かせる。