『エル・スール』(1982/ビクトル・エリセ)覚書2021/8/17

 音の映画。音、音、音。ここまで音の良い映画というのも珍しい。クオリティの高い映画。美しいというよりはクオリティが高すぎるんだ、あまりにも。そして何より音!

 音、光が射してくる。光、屋根裏の光。ここでの光は照明がFOして……カモメの模型はタイムラプスのように、自然光の経過を省略する。そう、本作はこのカモメの模型の四つの省略が全体を貫いている。時間経過による自然光の変化を省略するのと同じように、少女の人生もまた省略されている。

 そう、映画というのはそういうものだったな。物語内の時間は続いているが(少女の人生)、彼女はいつの間にか15歳になっている。

 音の映画、はずむボール、階段の音、タンゴの音楽、ステップの音、音楽、列車の音。バイクの音、音、音、音。レストランでの音。会話の音。そう、音といっても声が素晴らしいんだ本作は。

 ストローブ=ユイレほどくどくはない、もっと音として、しかしブレッソンのそれとも違う。劇中劇の音はフツウの音で、全ての音が適切である。そう正確な音、音、音の映画。少女と蝋燭のショット、そして何よりも素晴らしいのがレストランでの父との会話、ここのカットバックは見事、その後クレーンで上がるのも、そうあの窓越しの手紙のシーン……音と会話、視線の交差が素晴らしい。グリフィスに忠実な、つまり正確なエリセの規律が__。

 人は南を目指す、南仏を求めるのと同じように。やっぱり寒い北から暖かい南へ向かうのは世界共通なんだな。人は所詮気候に動かされているだけ。