『虞美人草』(1935/溝口健二)覚書2021/8/20

 人間って図々しいね。コント、コントですよこれは。冒頭の落書きを消すくだりとドビュッシーと中盤のショパンサイレント映画っぽいけど普通にトーキー。

 劇としては男の苦悩を描く為に彼が悪役を買って出ているけども(構成として)これが"売る"というか小説としては正解なんだろうか。そもそも田舎から許嫁ってのだけを頼りに二人で上京してくるってのもかなり図々しい。現代でもこれはないでしょう。時計を返す学生は彼女を庇うけれども。

 苦悩する彼だって開き直ってしまえばいいのに。まあそれだとドラマが成立しないんだけども。女も女で図々しい。

 時計が破壊されるクライマックスの波のモンタージュは凄い、後の坂妻版『無法松の一生』の元ネタじゃんかこれ。溝口が先にやっている、強すぎるでしょこの人。そう初期の溝口は結構大胆に映画で遊んでいるよね、活き活きしている。

 夜の列車のショットなんかもいい、鉢合わせしちゃって車が出て行くシーンも好き。一時間と短いのも良いけれどかといって傑作ってほどでもない。

 考えれば考えるほどコントだねこれは、全員図々しくてとりあえずの貧乏くじを誰かに引かせて人を動かすという。小説、物語ってのはこう動かすものなのか? 母親なんかもかなり酷かったね、人間は本当にめんどくさいし大人になるってこういうことなんだろうな。