映画

『すっ飛び駕』(1952/マキノ雅弘)覚書2021/9/6

ラストの暗闇に灯る提灯の大群に身一つで歩いて行く河内山の姿は『関の彌太ッぺ』に受け継がれているんだな、このシーンキマりまくっている。すっ飛び駕の歌を歌い男は死へ向かう。 現代の日本のテレビドラマはマキノの枠を未だ出られずに居ることがよくわか…

『赤い河』(1948/ハワード・ホークス)覚書2021/9/5

やっぱりハワード・ホークスは天才なんだな、というかホークスの作品はどれも脚本が良く出来すぎているんだあまりにも。冒頭で彼女を置いて去るジョン・ウェイン、その姿が後の息子(跡継ぎ)の彼女に繋がってくる! 冒頭、インディアンとの格闘で川に飛び込む…

『人情紙風船』(1937/山中貞雄)覚書2021/9/4

画面がとんでもなく暗い、ここまで画が暗い映画、それも日本映画じゃ中々ないでしょう。フィルムノワールのそれとも違うんだな、これが長屋の暗闇の実景なのだろうか? 落語の長屋もここまで暗いのだろうか。 "人情"というタイトルがついていながら恐怖映画…

『南部の人』(1945/ジャン・ルノワール)覚書2021/9/3

ルノワールがちゃんとアメリカ映画をやっているじゃないか! パーティーのシーンなんか実にアメリカ調でよろしくやっている。というか脚本がそうなんだろうな。農業と水ってのはルノワールに撮らせて正解だね、彼こそ自然、大地と水なんだから。 しかしいく…

『歌麿をめぐる五人の女』(1946/溝口健二)覚書2021/9/2

冒頭の腕試しのシーンで歌麿の手元は見えず紙に視線を送る人物(見物人)らのバストショットが続き、そして歌麿らが去り、相手だけが残り愕然と紙を見つめるショット、そしてやっと次に肝心の絵のショット! 素晴らしい、これが映画なんだな。昨日あまりにも酷…

『さらば、わが愛 覇王別姫』(1993/チェン・カイコー)覚書2021/9/1

フィルマークスで信頼できる星4.2以上の映画ってのは総レビュー数が~数百のシネフィル連中でしかアクセス不可能な映画であって、本作のような五千超えの映画ってのは見えている地雷なんですね。まあ普通に突っ込んで見事に撃沈した。三時間を返せ。 ここまで…

『ふるさとの歌』(1925/溝口健二)覚書2021/8/31

2のラストで青年が都会の学生となって同窓生と再会し、こいつは小学校では優秀だったんだよと友人に紹介されるシーンの後に馬車を操る青年のショット、このシーンは好きだな。青年の夢オチ、なんだかサイレント映画っぽくない? しかしラストの茶番はなんだ…

『甘い生活』(1960/フェデリコ・フェリーニ)覚書2021/8/30

アヌーク・エーメのシーンは全部良いな、流石に強すぎる。冒頭、キリスト像の空輸、ヘリの音越しの聞こえぬ声。フェリーニの映画はこの聞こえざる声をジェスチャーで読み取るような__ラストでも同じように声は届かない。フェリーニは我々に訴える、しかし…

『戦火のかなた』(1964/ロベルト・ロッセリーニ)覚書2021/8/29

ネオレアアリズモとは一体何だったのか? 戦火を劇で再現し、それにニュース映像をモンタージュさせたか? 素人を演出したとして、役者を演出するのと何が違うのだろう? 冒頭、爆撃から始まるがこれはロッセリーニが制作し演じられたものだろうか? それと…

『宮本武蔵』(1944/溝口健二)覚書2021/8/28

武蔵がクソでかい一本松(杉?)の下で刀を洗うシーンと「小次郎は武蔵の鏡」というセリフ、ラストの「心の伴侶とする」ってセリフが良いくらいで他は凡。 外でのチャンバラで武蔵を追うキャメラ、奥に歩いてくシーンもそうだけどキャメラがとにかく追って行く…

『キートンの探偵学入門』(1924/バスター・キートン)覚書2021/8/27

キートンの身体性のコメディに勝てるものが他にあろうか? ベタすぎるギャグもキートンの身体性によって超一流品となる、彼が作家でなくて誰が作家なんだ? 冒頭、床に散らばったゴミ山に1ドル札を落としたという人が二人来る、キートンは泣く泣く自らの1ド…

『女性の勝利』(1946/溝口健二)覚書2021/8/26

「あなたは負けちゃったのね、生活に負けちゃったのね、生活から逃げちゃいけないのに、生活は闘わなくちゃいけないのに」このシーンの長いこと長いこと、カットを割らない! 一回奥に行ってもまた前に戻って来る。 夫が事故に遭ってからというもの、もの売…

『イタリア旅行』(1953/ロベルト・ロッセリーニ)覚書2021/8/25

ファーストショット、走る車の先頭に置いたキャメラがガーっと移動している、もうこのショットから面白い、次に左の車窓を過ぎ去る景色のショット__至福! 二人の会話、マジでこれ『勝手にしやがれ』じゃん。後ろに男が一人の三人乗りのシーンでジャンプカ…

『元禄忠臣蔵 前編・後編』(1941/1942/溝口健二)覚書2021/8/24

忠臣蔵は大抵前後編に分けられ前編で討ち入りまでの段取り、後編は討ち入りで終わりというのがお決まりだが溝口は討ち入りを丸々カットしその後の切腹をクライマックスに持ってきた。これはとんでもない手腕、なんでこれが忠臣蔵のスタンダードでないのか不…

『非情城市』(1989/侯孝賢/ホウ・シャオシェン)覚書2021/8/23

初HHH、160分ながら全く尺の長さを感じさせない。空間に文字通り固定されたキャメラ、これが持続どころか永遠ですらあるかのようなショットのリズムを刻む。 空間にキャメラを固定すること、視点を窃視するのではなく観測者となること、即ち神となること。 …

『夜の女たち』(1948/溝口健二)覚書2021/8/22

本作の中に増村を発見した、彼はまさしく溝口のDNAを受け継いでいる、このエネルギー……。家出娘がアジトに連れられて来た際の移動ショットが凄い、移動のキャメラがヌルヌルキマる。 病める子ら、被害者、彼女らは傷を負っている、負わされたのだ、悲しきか…

『モンキー・ビジネス』(1952/ハワード・ホークス)覚書2021/8/21

ホークスにしては珍しく立ち上がりが遅い。30分、いや大目にみても25分はホークスにしちゃ遅すぎる。 これは仕方のないことで、若返りの薬を飲むことによって年老いた二人の身体性が「解放」されることがキーだから立ち上がりが遅いのはしょうがないんだけど…

『虞美人草』(1935/溝口健二)覚書2021/8/20

人間って図々しいね。コント、コントですよこれは。冒頭の落書きを消すくだりとドビュッシーと中盤のショパンがサイレント映画っぽいけど普通にトーキー。 劇としては男の苦悩を描く為に彼が悪役を買って出ているけども(構成として)これが"売る"というか小説…

『コルドラへの道』(1959/ロバート・ロッセン)覚書2021/8/19

アマプラで観た、これは面白い。脚本がかなり練られている。キャラクター同士が上手に対立する。 映画の登場人物というのはなにかしらの問題を抱えている。90分ないし120分かけて問題は解決される。対立、共通の問題を抱えているが故の対立、同族嫌悪。嫌な…

『噂の女』(1954/溝口健二)覚書2021/8/18

「お互いに金も地位も何もないけれど若いってことが僕らの力ですよ」これを母が聞いているんだから凄い。完全なあてつけ、実際その通りなんだが。この時の顔! 若さってのはどうしたって取り戻すことは出来ないからね。それにしてもなんか小津みを感じると言…

『エル・スール』(1982/ビクトル・エリセ)覚書2021/8/17

音の映画。音、音、音。ここまで音の良い映画というのも珍しい。クオリティの高い映画。美しいというよりはクオリティが高すぎるんだ、あまりにも。そして何より音! 音、光が射してくる。光、屋根裏の光。ここでの光は照明がFOして……カモメの模型はタイムラ…

『雪夫人絵図』(1950/溝口健二)覚書2021/8/16

心の亭主と身体の亭主がバラバラの女は引き裂かれ、身を投げた。心の亭主が言うように、そしてラストの女中の叫びと同じように__彼女は生きねばならなかった。彼女は何も知らずに死んでいった、いや、彼女は何も知らされずに死んでいった。ここに溝口のイ…

『捜索者』(1956/ジョン・フォード)覚書2021/8/15

デビーの生存を確認した後の白髪の爺さんの顔のショットとクライマックス前、崖の上でのジョン・ウェインの顔のショットが美しすぎる。その後のおっちゃんの顔のショトも素晴らしい。というか全編美しすぎるんだ、あまりにも。 初めのショット、ドアが開いて…

『楊貴妃』(1955/溝口健二)覚書2021/8/15

ここまで贅沢な映画も珍しい。カラーで、バカでかいセット組んで、このキャストで……そして何よりも監督が溝口健二。助監督に増村保造。 そう、最初の正面の廊下を歩いてきてからの横移動からもう溝口。上弦の節句のシーンなんかも凄い、正面から仮面の舞踏を…

『赤ちゃん教育』(1938/ハワード・ホークス)覚書2021/8/13

本当に面白い、もう何も俺なんぞが言及することはない。アクションでアクションをつないでしまうホークスの天才! アクションが止まらないにも関わらずホークスの会話が連なっていく、いやむしろアクションによって加速している。 『関の彌太ッぺ』のあの花…

『乳房よ永遠なれ』(1955/田中絹代)覚書2021/8/12

「私が目つぶってる間に帰って」ってそれジュリーの勝手にしやがれやないかーい! と一人ツッコミを入れる。しかしなんだかな、森雅之が退場してから全く面白くない、バス停での別れと霊安室へ歩いて行って倒れるシーンと手鏡の演出以外もう全部ダメだ、ラス…

『友だちのうちはどこ?』(1987/アッバス・キアロスアミ)覚書2021/8/11

初キアロスタミ、子供が主人公ってだけで清水宏と結びつけるのも安直だけれども、どちらかと言えば『ルカじいさんと苗木』みを感じた。実際後半になると爺さんとの二人旅になるし、冒頭の坂道からしてもうルカじい。山岳地帯を子供が歩くというのがルカじい…

『祇園囃子』(1953/溝口健二)覚書2021/8/10

タイトル明けの1ショット目からもうキマりまくっているんだな、宮川のキャメラは。縦の構図、それも上からのこの構図は『無法松の一生』においても確認できる。 姉がお君へ謝罪する際のあの二人のショット、これも上から斜めに鋭角に捉える、これもキマりま…

『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016/ケン・ローチ)覚書2021/8/9

過剰な演出、誇張された演出。ここまでしないとパルム・ドールは獲れないのだろうか。本作で賞レースを勝ち抜いたからこそ『家族を想うとき』を撮ることが出来たと考えれば多少なりともその演出にも意義が見い出せるだろう。つまりトリュフォーの言う"本質を…

『祇園の姉妹』(1936/溝口健二)覚書2021/8/8

縦の構図。そりゃ祇園を撮るんだから当たり前と言えば当たり前なんだが田の字を、細い路を向こうからこちらに歩いてくる。 しかし溝口はやっぱりコントだね、"面白い"映画を撮っている。バルザック的と呼んでも良いものだろうか。コント__つまり神の視点。…